ベストセラーエッセイ『男の作法』の中で、池波正太郎は料理そのものの味わい方だけでなく、店での立ち居振る舞いや注文の流儀について厳しくも温かい提言を残しています。
池波が何より嫌ったのは、知識をひけらかして料理を評論する無粋な態度でした。店に入ったら大声で騒がず、お品書きをじっくり眺めて素早く注文を決める。そして「酒と料理が届いたら、温かいうちに黙って美味しくいただく」。これが大人の基本作法です。
老舗でのスマートな振る舞いとして池波が説いたポイントは、主に以下の3点に集約されます。
・長居は無用:特に蕎麦屋や居酒屋では、長々と居座って飲み続けるのを良しとせず、酒2合に肴を2品、仕上げの蕎麦を平らげたら30〜40分程度でサッと席を立つ。
・店員への敬意:注文を通すときは簡潔に、勘定を済ませたら「ごちそうさま」と一言添えて店を出る。客が店を育てるという意識を持つこと。
・素材の旬と温度を逃さない:揚げたての天ぷらや熱々の汁物は、写真を撮る暇など惜しんで出された瞬間に口へ運ぶ。
こうした作法は、敷居が高く感じられがちな老舗の暖簾をくぐる際の最高の道しるべとなります。池波の教えは、単なるマナーではなく、「空間と料理への愛着の示し方」そのものなのです。