災害リスクの低さに着目して実際に他県から移住した人々の生活は、平穏そのものなのでしょうか。岡山県南部の主要都市や、佐賀県、富山県の地方都市に移住した住民へのヒアリング調査、SNSやコミュニティ掲示板に寄せられた検証言説からは、ハザードマップ上には表れない「リアルの多面性」が見えてきます。
「関東の揺れの多さに疲れ、地震保険料も安い岡山県の中山間部へ家族で住み替えました。確かに日常的に地震アプリの通知に怯えることはゼロになり、強固な花崗岩の安心感は絶大です」と語る40代のIT系テレワーカー。しかし、その後に続いたのは生活インフラに対する偽らざる本音でした。「ただ、2018年の西日本豪雨の記憶が住民に根強く残っています。地震が来なくても、線状降水帯による内水氾濫や山背後の土砂災害リスクは全く別問題でした」。
また、雪国特有の気象条件との格闘を挙げる声も少なくありません。地震の少なさを理由に富山県へ転居した単身者は、移住からわずか2年で冬の生活負荷に直面したといいます。「地震の揺れ自体は滅多にありません。しかし、冬の数ヶ月間にわたる日照時間の極端な短さ、早朝から始まる過酷な除雪作業、車が埋まるほどのドカ雪による流通麻痺は、ある意味で『毎年来る確実な災害』に近い精神的摩耗を強いられます」。
さらに、地震が極めて少ない地方都市ほど、現地住民や自治体の「防災危機意識」にギャップが生じやすいという逆説的な問題も指摘されています。普段から震度3〜4を頻繁に経験している太平洋沿岸・首都圏の住民は、家具の固定や非常食の備蓄、感震ブレーカーの設置が習慣化しています。一方、数十年単位で大揺れを経験していない地域では、古い木造家屋の耐震改修が先送りされ、自主防災組織の活動が形骸化している事例が散見されます。