生命が存続するためには、外部から侵入する病原体や体内で発生する変異細胞(がん細胞など)を監視・排除する防衛機能が欠かせません。この精緻な生体防御システムこそが免疫システムのメカニズムです。このシステムが正常に機能しているからこそ、私たちは日常的に無数のウイルスや細菌に囲まれながらも生命を維持できています。
では、人命を救うための臓器移植において、なぜ命を守るはずの仕組みが移植臓器を激しく攻撃してしまうのでしょうか。拒絶反応が起こる理由の核心は、細胞表面に存在する「主要組織適合抗原(HLA:ヒト白血球抗原)」の一致・不一致にあります。HLAはいわば細胞に掲げられた「身分証明書」です。免疫細胞であるT細胞やマクロファージ、B細胞は、体内を常にパトロールしながらこの身分証明書を照合しています。一卵性双生児を除き、他者のHLAは自分自身のものと完全には一致しません。その結果、移植された健全な心臓や腎臓、肝臓であっても、免疫システムは「体内に侵入した巨大な病原体・異物(非自己)」と判定し、総力を挙げて排除にかかるのです。
ここで混同されやすいのがアレルギーとの違いです。アレルギーは花粉や食物、ハウスダストといった「本来は生体に害を及ぼさない無害な外来抗原」に対して免疫系が過剰に暴走し、IgE抗体などを介してヒスタミンを放出し、かゆみやくしゃみなどの炎症を引き起こす現象を指します。一方、移植における拒絶反応は、無害な物質への誤作動ではなく、「他者の生体組織という完全な異物」を認識して正確に攻撃・破壊しようとする、免疫として極めて正当かつ忠実な反応です。攻撃の対象が生体組織そのものであるため、破壊の規模や組織へのダメージはアレルギーの局所症状とは比較にならないほど激烈になります。