成虫としての数週間だけに目を奪われがちだが、彼らの本当の物語は漆黒の土の中で紡がれている。日本で一般的なアブラゼミでも地下で3年から5年、種類によっては6年以上を幼虫として過ごす。地上の喧騒から遠く離れ、木の根から吸い取ったわずかな栄養分だけでじっと時を待つ忍耐の歳月だ。
北米に生息する「素数ゼミ(13年ゼミ、17年ゼミ)」の生態は、進化生物学の視点からも世界的な関心を集めている。13年または17年という素数の周期で一斉に大量発生するこの現象は、天敵との遭遇確率を減らし、他種との交雑を避けるための極めて高度な生存戦略であると解明された。地下の暗闇で十数年を過ごし、地上で1ヶ月近く生きる。生命のタイムスケールを生物学全体で見つめ直したとき、彼らを「短命」と呼ぶこと自体がナンセンスであると気づかされる。