本作の魅力を深く味わう上で欠かせないのが、日ノ原巡ユニバースとも呼ぶべき前作群との連動性です。すべての原点となった『シークレット×××』では、湊の過保護な兄・三ノ宮翔平と、静真の弟である生嶋樹(みと)のピュアな恋愛が描かれました。そのスピンオフとして誕生したのが、静真と湊を主役に据えた『セラピーゲーム』シリーズです。
シリーズを通して描かれる三ノ宮湊の魅力は「強がりな態度の裏に隠された脆さと情の深さ」にあります。過去の恋愛トラウマから人を信じることが恐ろしくなり、ハリネズミのようにトゲを逆立てていた湊。一方の生嶋静真は、底知れぬ包容力と誠実さを持つ獣医師であり、湊の拒絶を決して否定せず、無条件の愛情でその心の氷を溶かしていきました。
続編『リスタート』における最大の焦点は、「恋人になった後、いかにして生活と人生を共にしていくか」という現実的な課題です。単なる甘い同棲生活にとどまらず、ネタバレに触れる重要エピソードとして読者の涙を誘ったのが、静真の多忙によるすれ違いと、湊の心理的葛藤でした。
獣医師としての使命感から激務に追われる静真を支えたいと願う湊。しかし、「重い存在になりたくない」「迷惑をかけたくない」という湊自身の自己防衛意識が、かえって二人の間に小さな溝を生んでしまいます。物語中盤では、静真の実家や仕事関係者との関わりの中で、同性カップルが直面する社会的な視線や、将来設計に対するリアルな不安が容赦なく描かれました。
しかし、そこで終わらないのが本作の真骨頂です。二人は衝突から逃げず、言葉を尽くして対話を重ねます。静真が湊の不安を真正面から抱きしめ、湊もまた自らの弱さをさらけ出す場面は、BLというジャンルの枠組みを超えたヒューマンドラマとしての凄みを放っています。