音響演出および演技構造の観点から本作を紐解くと、ジュディ役の上戸彩とニック役の森川智之のコンビネーションには、計算し尽くされた音のコントラストが存在します。
心理学や社会学の対人コミュニケーション論において、警戒心の強い個体同士が信頼を構築するプロセスには「心理的バウンダリー(境界線)」の緩やかな融解が不可欠とされます。本作におけるジュディとニックの関係性もまさにこれに該当します。
森川智之が演じるニックは、過去のトラウマから心を閉ざし、他者をからかうような「脱力したハスキーボイス」で自己防衛の壁を築いています。これに対し、上戸彩が演じるジュディは、高い音圧と濁りのないストレートな母音発音によって、まっすぐにニックの懐へと飛び込んでいきます。
「声優界の帝王」と称される森川の自在な引き算の演技(ウィスパー気味の息遣いや間合いの取り方)が、上戸の直球で熱量の高いストレートな芝居を完璧に受け止める構図が成立しています。このベテラン声優による卓越した受容の芝居があったからこそ、上戸彩の持ち味である生々しい感情の揺らぎが最大限に活かされ、映画史に残る名バディのグルーヴ感が生まれたのです。