世界的な評価を確立した是枝裕和監督と、名実ともに日本を代表する名優・役所広司。この二人の邂逅が生み出した化学反応は、観客の予想を遥かに超える厳しさと慈愛を孕んでいる。役所が演じるのは、路地裏で看板も出さずに一汁一菜のみを供する寡黙な料理人・惣一だ。
セリフは極限まで削ぎ落とされた。惣一が米を研ぎ、火を熾し、味噌汁の味を見る所作そのものが、彼の背負う暗い過去と贖罪の意識を雄弁に語る。是枝監督特有のドキュメンタリータッチな視線は、決して登場人物を甘やかさない。すれ違う親子、社会から零れ落ちた若者、誰にも看取られず消えゆく老人――彼らが惣一の差し出す一杯の飯を口にするとき、張り詰めていた感情の堤防が決壊する。派手なカタルシスを排した演出だからこそ、人間の本質が剥き出しになる瞬間が際立つ。