彼女の代名詞となった「エアあや」。その誕生は、決して恵まれた環境から生まれたものではなかった。当時の彼女は、ショーパブの舞台で日銭を稼ぐ日々を送っていた。本人の地声で歌うステージも好評ではあったが、より観客を巻き込み、一瞬で場を爆発させるキラーコンテンツを模索していたという。
そこで目をつけたのが、アイドル全盛期を象徴する松浦亜弥のヒット曲『桃色片想い』だった。しかし、本物の歌声に勝つことは容易ではない。ならば、音源をそのまま流し、表情と身体表現だけで「本人以上に本人らしく」魅せることはできないか。試行錯誤の末に編み出されたのが、あの大袈裟でありながら愛くるしいリップシンクだった。カセットテープが擦り切れるまで音を聞き込み、息継ぎのタイミングやマイクの引き方、視線の送り方までミリ単位で叩き込んだ作業は、まさに執念そのものだった。