井上氏が使用する釉薬の多くは、木灰や植物の灰を原料とした自家製の自然灰釉だ。化学薬品で着色された人工的な釉薬とは異なり、薪の種類や焼成時の窯内の温度、酸素の量(酸化・還元)によって、焼き上がりの発色が大きく変化する。
特に「緑灰釉」と呼ばれる作品群は、淡い青緑色から深い森のような緑色、時にはガラス質の透明感が交差し、複雑なグラデーションを見せる。釉薬の流れた跡(釉垂れ)がそのまま器の風景となり、二つとして同じ表情のものは存在しない。
マットで落ち着いた質感から、しっとりと濡れたような光沢感まで、灰釉が魅せる表情の幅広さは、毎日の食卓に豊かな変化をもたらしてくれる。