かつて教科書にも掲載されていた「味覚地図」は、1901年にドイツの心理学者ダフィット・ヘーニッヒが発表した論文の図を、1940年代に米国の心理学者が誤って解釈・引用したことから世界中に広まりました。ヘーニッヒの研究は「舌の部位によって味覚の感度にわずかな差がある」という報告に過ぎませんでしたが、いつの間にか「特定の部位で特定の味しか感じない」という極端な言説へとすり替わってしまったのです。
人間の味覚受容体は、舌で感じる基本五味(甘味・塩味・酸味・苦味・うま味)のすべてを舌全体で捉えています。その主役となるのが、舌表面や喉の粘膜に存在する味蕾の働きと構造です。味蕾は花のつぼみのような形状をした細胞の集合体で、内部にある「味細胞」が化学物質をキャッチして電気信号へ変換し、神経を介して大脳へ伝達します。味蕾が存在する場所であれば、舌先であっても側面であっても苦味を正確に知覚できることが証明されています。