『ハナミズキ』の誕生は、2001年9月11日にアメリカで発生した同時多発テロ事件に端を発します。当時、ニューヨークには一青窈の学生時代からの大切な友人が滞在していました。世界中が震撼し、ビルが崩落する凄惨な映像がリアルタイムで報道される中、彼女は友人の安否を案じて祈るような時間を過ごします。
幸いにも友人の無事は確認できたものの、世界は瞬く間に「テロとの戦い」という報復の渦へと突き進んでいきました。暴力に対して暴力で返す連鎖への強い憤りと無力感。一青窈自身が後に語っているように、当初ノートに書き殴られた言葉は、戦争やテロに対するストレートな怒りと激しい感情の吐露だったといいます。
しかし、彼女はその剥き出しの怒りをそのまま歌にするのではなく、一週間近く部屋に籠もり、言葉を極限まで削ぎ落としていきました。「憎しみをぶつけ合うのではなく、相手の幸せを願うことこそが平和への第一歩なのではないか」――そうした葛藤の末に昇華されたのが、今日私たちが耳にする慈愛に満ちた詞世界でした。