近年の耳科学における最大の転換点は、「耳鳴りは耳の異常だけでなく、脳の過敏なネットワークが引き起こす」というメカニズムの解明にあります。慶應義塾大学病院の名誉教授であり耳鳴り治療の第一人者である小川郁医師らが提唱・推進してきた知見は、世界的な医学データベースPubMedに蓄積された数々の論文によっても強く裏付けられています。
現在、日本耳鼻咽喉頭頸部外科学会のガイドラインでも高く評価されている治療アプローチが、TRT療法(Tinnitus Retraining Therapy:耳鳴再訓練療法)と音響療法です。TRT療法は、サウンドプロセッサーを用いて生活音に馴染む程度の微弱なノイズを聞き続けさせ、脳の感情回路(扁桃体)が耳鳴りを「危険信号」と誤認しないよう順応させる先進的メソッドです。かつて「治らないから慣れるしかない」と見放されていた慢性症状に対し、科学的根拠に基づいた神経回路の書き換えが実践されています。