直感的に「だまし絵」や「トリックアート」と総称されがちなこれらの作品ですが、認知心理学や視覚心理学における見方によって変わる絵の正式名称は「多義図形(曖昧図形 / Ambiguous figure)」、あるいは見え方が交互に入れ替わる性質から「反転図形(Reversible figure)」と定義されています。
この錯視アートの仕組みを理解する上で欠かせないのが、ゲシュタルト心理学が提唱した「図(Figure)」と「地(Ground)」の関係性です。人間の視覚システムは、視界に入った情報の中から「主役となる輪郭(図)」と「その背景(地)」を無意識に分離して認識しています。しかし、多義図形においては図と地を分ける境界線の情報が極めて絶妙に均衡しているため、脳の視覚野はどちらを主役にすべきか瞬時に決定できません。
眼球から入った網膜データは網膜から一次視覚野、さらに側頭葉の高次視覚野へと送られます。側頭葉は「これは過去の記憶にある何と一致するか」を高速で照合しますが、データが2通りの正解を持ちうる場合、脳内では2つの解釈が主導権を奪い合う「知覚の競合(Perceptual rivalry)」が発生します。その結果、ある瞬間にはAに見え、意識のフォーカスがわずかにズレた瞬間にBへと切り替わるという、あの独特の反転体験が引き起こされるのです。