ローマの下町情緒が残るテヴェレ川沿い、サンタ・マリア・イン・コスメディン教会の外回廊(ポルティコ)に鎮座する巨大な円形の大理石レリーフ。直径約1.75メートル、厚さ約19センチ、重量約1.2トンを超えるこの巨石こそが「真実の口」です。観光客がこぞって口の中に手を差し込むこの彫刻ですが、近世以降の考古学調査によって、その実用的な正体が明らかになってきました。
定説となっているのは、紀元前4世紀から紀元前1世紀頃の古代ローマ時代に作られた「雨水排水用のマンホール蓋」あるいは「神聖な泉・下水設備の吸水口」という構造です。当時のローマは世界初の本格的な下水道網「クロアカ・マキシマ(大下水溝)」を整備しており、市街地に降った雨水や神殿の聖水を地下水路へ逃すための排水口が必要でした。真実の口の目、鼻、口にあけられた合計5つの穴は、まさに水をスムーズに流し込むための開口部だったのです。
彫られている威厳に満ちた髭面のモデルについては、ギリシャ・ローマ神話に登場する海の神「オケアノス(Oceanus)」、またはテヴェレ川を司る河の神「ティベリヌス」、さらには大地の恵みを司る「ファウヌス」など複数の説が存在します。古代ローマ人は水回りの設備に水の神を彫刻することで、氾濫を防ぎ都市を守護してもらおうと祈りを捧げていました。単なる土木資材ではなく、信仰とインフラ技術が融合した芸術品であったことが、現地研究者の文献調査でも強調されています。