1990年代のバブル崩壊直後、世の中が混迷を極めていた時期に誕生した山形鐘一郎というキャラクター。彼は単なる頑固親父でも、気取り屋の評論家でもない。自分が本当に心地よいと感じるものだけを愛し、世間の流行やブランド主義を容赦なく一蹴する独立独歩の男だ。
集英社で連載が始まった当初から、その毒舌混じりの生活美学は読者に強烈なインパクトを与えた。高級料亭の料理を嘲笑い、スーパーで買った食材を独自の工夫で至高の逸品に変える。その姿勢は、後のグルメ漫画やライフスタイル提案系作品に多大な影響を与えた。扶桑社で刊行された続編シリーズも含め、半世紀近く漫画界の第一線で筆を執り続ける柳沢きみおの観察眼が、作品の端々から光を放っている。