日米の構造設計や確認申請実務に30年以上携わる設計統括ディレクターや、指定確認検査機関のベテラン審査員に取材すると、図面上では完璧に見える計画が現場で破綻するパターンが浮き彫りになってきました。
都内大手設計事務所のシニアアーキテクトは、次のように現場の実情を打ち明けます。
「意匠設計者が最もハマりやすいのが『入隅(いりすみ)』のスパンドレルです。建物の凹凸部分で、直交する2枚の外壁にそれぞれ窓が配置されている場合、法文上の『900mm以上』は壁面に沿った距離ではなく、開口部間の最短直線距離で測らなければならない特定行政庁が大半です。図面上は壁長で1.2mあるから大丈夫と油断し、申請直前の審査で『直線距離は700mmしかない』と指摘され、サッシのサイズを縮小せざるを得なくなった苦い経験があります」
また、検査機関の審査担当者は、バルコニーや庇の納まりについてこう警告を発しています。
「袖壁500mmの緩和を適用するために外壁から庇を跳ね出す設計が増えていますが、その庇の下地が鉄骨造で下面が不燃認定のない仕上げ材になっていたり、スリット状のグレーチング床になっていたりして、遮炎性能を満たさないケースが目立ちます。令112条の意図は炎を迂回させる物理的なバリアを作ることです。煙や炎が通過してしまう構造は、どれだけ出幅があっても突出壁とは認められません」
SNSや実務者向けの掲示板でも、「耐火建築物のスパンドレルパネルに断熱材を抱き込ませたところ、外壁の防火構造告示に合致しないと指摘された」「サッシの袖壁クリアランスを現場監督が数センチずらして施工し、完了検査で是正工事になった」といった生々しいトラブルが定期的に共有されています。意匠・構造・施工の連携がわずかでも途切れると、スパンドレルは一瞬で「工事ストップ」の引き金になります。