金沢の食の現場を長年取材していると、旅行者が抱く幻想と現地の受け入れ体制との間にいくつかの構造的なギャップが確認されます。
第一のギャップは、「市場に行けば最も安くて旨い魚が食べられる」という思い込みです。近江町市場はかつて地元住民が日常の買い出しを行う市場でしたが、新幹線開通以降、店舗の構成は大幅に観光客向けへとシフトしました。現場の店主や卸売関係者の証言によると、「観光需要の急増と物価高騰に伴い、海鮮丼の単価が跳ね上がったのは避けられない流れ」とのこと。現在、地元の一般家庭が日常的に魚を求めるのは、近江町ではなく金沢港近くの直売施設「いきいき魚市」や、郊外の大型鮮魚スーパーです。市場の活気ある雰囲気を楽しむ観光体験としては秀逸ですが、コストパフォーマンス至上主義で向かうと期待とのズレが生じかねません。
第二のギャップは、「金沢おでんはファストフード感覚でふらりと立ち寄れる」という誤解です。大手口コミサイトやSNSでは気軽な大衆酒場のように紹介されているものの、実態は東京の高級居酒屋に匹敵する激戦区と化しています。オープン前から寒風吹きすさぶなか2時間並んだ末に「目当てのカニ面が売り切れだった」と落胆する旅行者の姿は冬の日常風景です。現場の確実な攻略法は、1ヶ月以上前の事前電話予約、もしくは平日の開店直後(16:30〜17:00)の1巡目を狙い撃ちすることに尽きます。