サンリオの歴史の起点は、高度経済成長期の只中にあった1960年(昭和35年)8月10日です。山梨県庁の公務員として勤務していた辻信太郎氏が32歳で退職し、資本金100万円を集めて設立した「株式会社山梨シルクセンター」こそが、現在の株式会社サンリオの直接の前身にあたります。
当時の社名が示す通り、当初の主たる事業は山梨県の特産品であった絹製品(シルク)の産地直送販売でした。しかし、繊維ビジネスは価格競争が激しく、仕入れや在庫のリスクも大きい過酷な市場でした。辻信太郎氏は自著や当時の回顧録の中で、「ただ日用品を右から左へ流すだけの商売では、大手資本に勝てない。人の心を動かす付加価値が必要だ」と痛感した当時の心境を赤裸々に語っています。
転機が訪れたのは1962年(昭和37年)のことでした。当時販売していたゴム草履に、かわいらしい「いちご柄」のイラストをプリントして店頭に並べたところ、飛ぶように売れるという現象が起きました。無地の履物と同じ素材でありながら、小さな絵柄が入るだけで人々が笑顔になり、喜んで買い求めていく光景を目撃した辻氏は、ここに商売の本質を見出します。
「人間は誰しも、誰かと仲良く暮らしたいという本能的な願いを持っている。ほんの小さな贈り物(スモールギフト)が、人と人との心を繋ぎ、大きな笑顔(ビッグスマイル)を生み出す」。この強烈な原体験が、のちに世界を魅了するサンリオのソーシャル・コミュニケーションビジネスの根幹となりました。