大相撲の決まり手八十八手の中で「反り技」に分類される技は、居反り、伝え反り、たすき反り、外掛け反り、撞木反り、掛け反りの6つが存在します。いずれも相手の懐や下に潜り込み、自らの背中を反らせて倒す極めて難度の高い大技です。その中でも「伝え反り」と「居反り」は混同されやすいため、その力学的メカニズムと決定的な違いを整理しておく必要があります。
伝え反りの仕組みは、相手の脇の下を潜り抜け、相手の腕を取りながら、その腕に自らの体を「伝わせる」ようにして後ろへ反り倒す技です。相手の突っ張りや前進する力を利用し、相手の体軸を横回転させながら自らの後方へと落とします。
一方、宇良の代名詞とも称される「居反り(いぞり)」との違いは、潜り込むコースと力のベクトルにあります。居反りは相手の正面から懐深く低く潜り込み、相手の太ももや胴を抱え上げて真後ろに反り投げる技です。正面からのリフトアップが不可欠な居反りに対し、伝え反りは「相手の側面に回り込み、腕を支点にして巻き落とすように反る」という特徴を持ちます。
バイオメカニクス(生体力学)の観点から見ると、伝え反りは180キロを超える相手の直進運動エネルギーを、自らの超低空潜行によってベクトル変換する高度な物理現象といえます。強靭な背筋力、股関節の柔軟性、そしてミリ秒単位で相手の重心の偏りを見極める空間把握能力が揃わなければ、首や腰に致命的な負荷がかかり決して成立しない神業です。