朝の通勤ラッシュが一段落した午前9時、表参道の一角にあるスタンドには、紙カップを手にした若者たちの姿があった。彼らが飲んでいるのはラテでもエスプレッソでもない。目の前で0.1度単位の温度管理のもと抽出された、削りたて鰹節の1番出汁だ。カフェイン過多による不調を避ける姿勢が定着した2026年、無添加で低カロリー、しかも高アミノ酸のプレミアム出汁は、若年層にとって最もシックな「エナジードリンク」へと昇華した。
「朝一番に温かい出汁を胃に入れると、自律神経がスッと整う感覚がある」。そう語る20代のIT企業社員の言葉通り、過剰な刺激に晒される現代人にとって、出汁がもたらすホッとする滋味は精神的なアンカー(繋ぎ止めるもの)として機能している。テイクアウトだけでなく、オフィス用の定期配送サブスクリプションを提供する店舗も急増しており、都市部のビジネスパーソンにとって出汁を飲む習慣は完全に日常の風景へと溶け込んだ。