吉田拓郎の『今日までそして明日から』は、1971年3月25日にCBS・ソニー(ODYSSEYレーベル)から3枚目のシングルとして世に放たれました。同年11月にリリースされ、日本の音楽シーンの金字塔となった名盤アルバム『人間なんて』にも収録され、拓郎初期の代名詞として定着していきます。
この楽曲が生まれた当時、拓郎は広島から上京して間もない20代半ばでした。東京・高円寺の四畳半アパートで過ごす日々は、決して順風満帆なものではありませんでした。当時の手記やインタビューによると、ライブハウスでの反応への苛立ち、旧態依然とした音楽業界の大人たちへの反発、そして「自分は何者なのか」という根源的な不安が常に渦巻いていたと述懐されています。
当時のフォークシーンは、ベトナム戦争への反戦歌や、学生運動の熱気と結びついた政治的メッセージソングが主流を占めていました。しかし拓郎は、そうした「大きな正義」を声高に叫ぶ風潮に強い違和感を抱いていました。誰かの敷いたレールや思想に同調するのではなく、日々の生活のなかで傷つき、迷い、それでも飯を食って生きている等身大の自分を描くこと。四畳半の部屋でノートに殴り書きされた言葉の連なりこそが、この楽曲の原点でした。