楽曲冒頭、静寂を破って立ち上るあまりにも美しい導入部。ここで奏でられる息をのむような哀愁のメロディは、オーケストラではオーボエソロ(およびイングリッシュホルンとの掛け合い)によって紡ぎ出されます。東洋的な旋法(ペンタトニックや増二度音程)を巧みに取り入れたこの旋律は、聴く者のノスタルジーを強烈に刺激します。
原曲の歌劇において、この旋律はポロヴェツの娘たちによって歌われる合唱です。その歌詞には、故郷の平原を懐かしむ痛烈な望郷の念と、穏やかな愛の情景が綴られています。
【合唱の原詩と日本語和訳(要約抜粋)】 ロシア語原詩:
Улетай на крыльях ветра ты в край родной, родная песня наша…
日本語対訳:
「風の翼に乗って飛んで行け、私たちの懐かしい歌よ、故郷の地へ。
かつて私たちが自由に歌い、心安らかに暮らした、あの緑深き草の海へ。
太陽が暖かく照り、山々が青く霞むあの場所へ、私たちの愛の歌よ、届いておくれ」
この郷愁を帯びたメロディは、20世紀以降、ポピュラー音楽界でも大ヒットを記録しました。1953年のブロードウェイ・ミュージカル『キスメット(Kismet)』の挿入歌『ストレンジャー・イン・パラダイス(Stranger in Paradise)』としてトニー・ベネットらが歌い上げ、全米・全英ヒットチャートの頂点に君臨。日本でもJR東海の「そうだ 京都、行こう。」のCM曲や、サントリー「オランジーナ」のCM、ドラマの挿入歌など、数多くの映像表現の原曲として繰り返し起用されてきました。