『道化師のソネット』の創作動機を語る上で避けて通れないのが、楽曲の元ネタとなった実在の青年、栗原徹(くりはら・とおる)氏の存在です。報道資料および当時のドキュメンタリー記録によると、栗原氏は元々写真家を志していましたが、地方巡業中だったキノシタサーカスの舞台に強く魅せられ、裏方としてサーカスの世界へ飛び込みました。
やがて子どもたちを心から愛する彼は、白塗りのメイクに身を包み、おどけた仕草で観客を沸かせるピエロ「クリちゃん」として舞台に立つようになります。舞台裏での厳しい鍛錬と孤独を一切見せず、常に周囲へ笑顔を振りまいていた栗原氏の姿は、多くの団員や観客から深く愛されていました。
しかし、悲劇は突如として訪れます。1977年、群馬県水上町(現・みなかみ町)での公演中、高所作業中の転落事故によって栗原氏は28歳という若さで帰らぬ人となりました。観客に夢と笑いを与え続けた青年が迎えたあまりにも早すぎる死は、当時のサーカス関係者のみならず、社会に大きな衝撃を与えました。この栗原氏の情熱的な半生と悲劇の顛末を綴ったノンフィクション本が草薙幸二郎著『翔べイカロスの翼』であり、のちに映画化へと動くことになります。