名古屋手羽先を語るうえで避けて通れないのが、「世界の山ちゃん」と「風来坊」の二大チェーンによるスタイルの違いです。両者は同じ「手羽先唐揚げ」という看板を掲げながらも、味付けの方向性、使用する肉の部位、さらにはブランドの哲学に至るまで対照的なアプローチをとっています。
元祖である風来坊は、手羽先先端の「手羽端(手羽チップ)」と呼ばれる細い部位を切り落とし、肉づきの良い「手羽中」部分を中心に使用します。肉質の柔らかさと食べやすさを最優先した設計であり、肉厚な身に特製の甘辛熟成タレを塗り、仕上げに芳ばしい白ごまを振るのが特徴です。外皮のパリッとした食感の奥からジューシーな肉汁と上品な甘みが広がり、子どもから年配層まで幅広い世代に愛されるバランスの取れた仕立てとなっています。
一方の世界の山ちゃんは、手羽先を先端までまるごと一本そのまま揚げます。最大の個性は、創業者の山本重雄氏が試行錯誤の末に生み出した門外不出の「幻のコショウ」です。秘伝のタレをくぐらせた直後に、強烈な刺激を持つ特製スパイスを惜しげもなく振りかけます。一口かじれば鼻を突き抜ける刺激的な辛味と塩気が広がり、ビールやハイボールが瞬く間に進む、極めてエッジの効いた中毒性を持っています。