蕎麦の歴史を紐解くと、まず誕生したのは「もりそば」でした。江戸時代初期、蕎麦は茹でた麺をつゆにつけて食べる「そば切り」が主流でしたが、元禄年間(1688〜1704年)頃に麺の上から温かいつゆを直接かける「ぶっかけ」が大流行します。
汁をかける手軽な「ぶっかけ」と区別するため、従来の器に高く盛り上げて出すスタイルを「盛り蕎麦(もりそば)」と呼ぶようになったのが語源です。
それから約半世紀後の宝暦から明和年間(1751〜1772年)、江戸・深川州崎の有名店「伊勢屋」が新たな仕掛けを打ち出します。当時の蕎麦屋は安価な大衆食として定着していましたが、伊勢屋は差別化を図るため、竹で編んだ「ざる」に蕎麦を盛り付けて提供しました。これが「ざるそば」の誕生です。
伊勢屋のざるそばは、目利きに厳しい江戸っ子の間で「水切れがよく最後まで蕎麦が伸びない」「見た目に涼やかで風情がある」と大評判になり、幕府の要職である「御膳番所(ごぜんばんしょ)」にも認められる格式高い名物料理へと昇華していきました。