中国語で組織犯罪全般を指す言葉が「黒社会(ヘイシャーホイ)」です。この闇のネットワークを理解する上で避けて通れないのが、清朝末期にまで遡る秘密結社「洪門(天地会)」の存在です。「反清復明(清を倒し明を復活させる)」を掲げた政治結社は、時代の変遷とともに互助組織から非合法な地下組織へと性格を変貌させていきました。
その代表格が、イギリス統治下の香港で勢力を伸ばした三合会(トライアッド)です。「14K」「新義安」「和勝和」といった著名な会派は、映画産業、賭博、麻薬、売春などあらゆる地下利権を掌握しました。1960〜70年代の香港警察との癒着や激しい利権抗争は、当時の特番インタビューや香港映画のモチーフとなった数々の実話からも生々しく記録されています。返還前の香港では、警察の汚職取締機関(ICAC)が設立されるまで、治安当局の内部にまでトライアッドの影響力が深く浸透していました。
一方、1980年代後半から1990年代にかけて世界を震撼させたのが、不法移民の密航を手引する犯罪ネットワーク蛇頭(スネークヘッド)です。福建省沿岸部を拠点に「シスター・ピン」と呼ばれた鄭翠萍などの大物ブローカーが暗躍。1人あたり数万ドルの密航費用を徴収し、貨物船の船底に数百人を詰め込んでアメリカや日本へと送り込みました。1993年にニューヨーク沖で座礁した「ゴールデン・ベンチャー号事件」は、その非人道的な手口を世界に露呈させました。彼らは単なる運搬屋にとどまらず、目的地に到着した不法移民から借金を回収するため、現地で地下銀行や恐喝組織を形成し、中国マフィアの世界的な拡散を決定づけたのです。