藤本氏の身に何が起きたのかを理解するためには、北朝鮮の秘密警察組織である国家保衛省の存在を避けて通ることはできない。反体制活動の取り締まりや国外情報の流入監視を担うこの組織は、平壌に滞在する外国人はもちろん、元帰国者である藤本氏のような存在を常に最重要監視対象としてマークしていた。
関係者の証言によると、彼がかつて日本や欧米のメディアに流した北朝鮮内部の情報、さらには店で得た外貨の管理を巡り、国家保衛省との間で重大な摩擦が生じていたとされる。特に朝鮮労働党内部で過激な反日派や強硬派が台頭した局面では、日本人である彼が存在すること自体が政治的リスクとみなされた。
北朝鮮において「粛清」や「隔離」は日常茶飯事である。しかし、公的な発表がないまま人物が消息を絶つと、外電やネット上では一気に「処刑」というショッキングな言葉へと変換されていく。彼が直面しているのは、物理的な死ではなく、政治的な抹殺かもしれない。