「山にエサがないから里へ下りてくる」という従来の説明だけでは、現在の市街地出没の全容を捉えきれません。その背景には、複合的な環境変化と熊の生態的シフトが存在します。
第1の要因は、過疎化や林業の衰退に伴う「里山(緩衝地帯)の消滅」です。かつて人間と野生動物のテリトリーを隔てていた草刈り地や雑木林の手入れが行き届かなくなり、山林の境界線が住宅地のすぐ裏手まで迫っています。さらに、耕作放棄地に実る放置果樹(柿や栗)や生ゴミ、家庭菜園の野菜などが、熊にとって手軽で栄養価の高い餌場として定着してしまいました。
第2の要因として深刻視されているのが、「アーバン・ベア(都市型クマ)」と呼ばれる個体の増加です。幼少期から人間の生活圏の匂いや音に慣れ親しみ、人間への過度な警戒心を持たない世代が繁殖を繰り返した結果、住宅街を危険な場所と認識せず、自らの生息圏の一部として利用するようになっています。