数学の世界には、世間の常識から大きくかけ離れた行動を取る天才が少なくありません。彼らが「変人」と呼ばれる最大の理由は、思考のすべてを抽象世界に没入させる脳の極端なシングルタスク性にあります。日常生活の細かな手続きや社会的体裁に割くリソースを極限まで削ぎ落とし、24時間すべてを数理的探求に注ぎ込んでいるのです。
その筆頭格として語り継がれるのが、20世紀最高の巡回数学者ポール・エルデシュです。彼は定職や持ち家を持たず、2つのスーツケースだけを持って世界中の共同研究者の家を突然訪れては「私の脳は開いている」と宣言し、数論の問題を解き続けました。睡眠時間を削るためにカフェインなどを常用し、生涯で約1500編もの論文を発表したその生き様は、数学の殉教者そのものでした。
100年の未解決難問「ポアンカレ予想」を2002年に証明したロシアの数学者グリゴリー・ペレルマンの行動も、世界に大きな衝撃を与えました。彼は数学のノーベル賞とされるフィールズ賞の受賞を辞退し、さらには米クレイ数学研究所が提示した100万ドル(約1億5000万円)の懸賞金すら受取拒否しました。「自分の証明が正しければ、他の賞など必要ない」と言い残し、故郷サンクトペテルブルクの森の近くで母と共に隠遁生活を送り、キノコ狩りを楽しむ姿が報じられています。名誉や金銭への執着を一切捨て去る純粋さこそが、常人から見れば最大の「奇行」と映るのかもしれません。