芸能界において「大物俳優の息子」という看板は、初期の注目度を集める一方で、一歩間違えれば激しい逆風や色眼鏡に晒されるリスクを孕んでいます。しかし、橋本一郎に対する映画業界の評価は極めてストイックです。それを決定づけたのが、2009年公開の巨編映画『劔岳 点の記』(木村大作監督)への出演でした。
この作品には、主人公を支える重要人物として父・役所広司も出演しています。事実上の親子共演として話題を呼びましたが、制作現場における扱いは完全に独立した個々の役者でした。過酷な北アルプスの雪山ロケに挑んだ橋本一郎は、測量隊を支える荷運び・人足の一員として、吹雪の中を這うように歩く過酷な撮影に身を投じました。当時の撮影関係者の証言によると、現場で役所広司が息子を特別扱いすることは一切なく、監督の木村大作氏からも容赦ない怒号と指導が飛ぶ極限状態だったと伝えられています。
公の記者会見や宣伝番組でも「親子共演」をセンセーショナルに売り込むことはありませんでした。バラエティ番組に親子で並んで出演し、仲睦まじい家庭エピソードを語るようなイージーな露出路線を完全に拒絶した姿勢は、現在に至るまで橋本一郎の揺るぎない矜持となっています。