ふたりの原点は、古谷が演劇への情熱を燃やしていた劇団俳優座の研究生時代にまで遡る。まだ何者でもなく、明日の生活さえ見通せなかった若き無名俳優。その才能と愚直なまでの情熱を最初に見抜き、信じ抜いたのが、若き日の妻であった。風呂なしのアパートで台本を握りしめ、夜遅くまで台詞を反芻する夫を、彼女は働きながら支え続けた。
「この人は必ず日本の演劇界で名を成す」。根拠のない確信を胸に抱きながら過ごした極貧の下積み期こそが、生涯揺らぐことのない夫婦の絆の礎となった。ブレイクを果たし、世間から喝采を浴びるようになっても、ふたりが初心を忘れることはなかった。成功を収めても傲らず、生活のリズムを崩さない堅実な家庭環境は、下積み時代の苦楽を共にした妻の存在があってこそ保たれていたのである。