一般の利用者の多くは「チェーン店なのだから、どこの富士そばでも全く同じ味だろう」と思い込んでいます。しかし、これは明確な誤解です。
名代富士そばを運営するダイタングループは、単一の企業ではなく、複数のグループ会社(ダイタン食品、ダイタン企画、ダイタンイートなど)によって構成されています。創業者の方針により、各グループ会社および各店舗の店長に大きな裁量が与えられているのが最大の特徴です。
たとえば、蕎麦の生命線である「そばつゆ(だし)」に関しても、共通のタレを使用しつつ、各店舗の厨房で職人が毎朝丁寧に鰹節から出汁を煮出しています。そのため、煮出し時間や火加減によって、微妙につゆのキレや香りの立ち方に個性が出ます。さらに、生そばの茹で上げタイミングや天ぷらの揚げ上がりの状態にも、作り手の腕が色濃く反映されます。
加えて、店舗限定の実験的なオリジナルメニューが存在するのもこの分社制の賜物です。「ポテトチップスそば」「パクチーそば」といったネットをざわつかせる前衛的な限定品は、現場の店長やスタッフのアイデアから生まれています。均一化されたマニュアル主義のファストフードとは異なり、個人商店の集合体のような遊び心と生命力が、富士そばの屋台骨を支えているのです。