時計の針を少し巻き戻してみよう。1930年代に誕生したクラシックなブランドが、これほどまでにモダンなカルチャーアイコンへと変貌を遂げた背景には、親会社であるプロクター・アンド・ギャンブル(Procter & Gamble / P&G)の大胆なリブランディング戦略が存在する。「おじいちゃんの匂い」という古いパブリックイメージを粉砕したのは、2010年代初頭に放たれた伝説的な広告キャンペーン「The Man Your Man Could Smell Like」だった。
元NFLプレーヤーのアイザイア・ムスタファ(Isaiah Mustafa)が上半身裸で繰り広げるワンカット風のシュールな語り口、そして怪優テリー・クルーズ(Terry Crews)の爆発的なエネルギーを前面に押し出したプロモーションは、瞬く間にYouTubeをはじめとする動画プラットフォームで社会現象を巻き起こした。ユーモアとマスキュリニティの再定義。それは退屈だった日用品のマーケティングを、エンターテインメントへと昇華させた瞬間だった。
このバイラルな成功は、世界的なメンズコスメ・グルーミング産業(Men's Grooming Industry)の急成長と完璧に歩調を合わせていた。スキンケアやボディケアに自己投資を惜しまない現代の男性たちにとって、オールドスパイス(Old Spice)は単なる消耗品ではなく、セルフブランディングを表現する洒脱なギアとして再評価されたのだ。