スイスが世界でも極めて特異な終末期選択の地となっている背景には、同国の法体系における個人の自己決定権に対する強い尊重があります。根拠となっているのは、スイス刑法第115条です。この条文では、「利己的な動機(遺産目当てや個人的な怨恨など)がない限り、他者の自殺を幇助しても処罰されない」と規定されています。
ここで混同されやすいのが「積極的安楽死」「尊厳死」「自死幇助(自殺幇助)」の違いです。スイスの制度を正しく理解するうえで、以下の区別は極めて重要です。
① 積極的安楽死(スイスでは違法):
医師などの第三者が患者に致死薬を直接注射・投与して死に至らしめる行為。オランダやベルギー、カナダなど一部の国で合法化されていますが、スイスでは刑法第114条(嘱託殺人罪)に抵触するため明確に禁止されています。
② 尊厳死・消極的安楽死(日本を含む多くの国で容認):
回復の見込みがない終末期の患者に対し、人工呼吸器の装着や昇圧剤の投与といった延命治療を差し控え、または中止して自然な経過に委ねる行為です。
③ 自死幇助(スイスで認められている形態):
医師が処方した致死薬を、患者本人が自らの手で経口摂取または点滴のコックを開くなどして投与し、生命を終える手法です。医師や第三者は準備と処方を行うのみで、最後の引き金を引くのはあくまで本人でなければなりません。