アニメのイメージばかりが先行する九份だが、本来の歴史は極めてドラマチックだ。19世紀末に金脈を発見されて以来、一時は「アジアの金都」と称されるほど繁栄した。黄金の時代の終焉とともに街は急速に衰退し、一時は地図から消え去るかのような寂れようを見せた時期もある。
街の再生のきっかけとなったのは、1989年の台湾映画『悲情城市』(侯孝賢監督)のロケ地となったことだ。台湾近代史の切ない傷痕を描いたこの金字塔的映画によって、九份のノスタルジックな街並みが再評価された。アニメの聖地という表層の奥には、台湾のアイデンティティと時代の波乱が刻まれた重厚な歴史が横たわっている。