最先端の医療研究において、キメラは移植医療の未来を大きく変える切り札として研究が進んでいます。代表例が、iPS細胞やES細胞の多能性を生かしたキメラマウス最新医療です。
遺伝子操作によって特定の臓器(膵臓や腎臓など)を作れないようにしたマウスやラットの初期胚に、別の個体(あるいは異種)の幹細胞を注入すると、宿主の体内で「目的の臓器だけが注入した細胞由来で作られた」キメラ動物が誕生します。この技術を応用し、ヒトのiPS細胞をブタなどの大型動物の胚に注入して体内工場のように人間の移植用臓器を育てる研究が、世界各国で精力的に進められています。世界的なドナー不足に苦しむ臓器移植医療にとって、待機患者を救う大きな光です。
その一方で、極めて重い課題として横たわるのがキメラ受精卵倫理問題です。ヒトの細胞を動物の胚に混ぜる異種間キメラ研究に対しては、以下のような倫理的懸念が指摘され続けています。
- 脳のヒト化への懸念:注入したヒト幹細胞が動物の脳神経系に分化し、「人間の意識や高い認知能力を持つ動物」が生まれてしまうリスクはないか。
- 生殖細胞への混入:ヒト由来の精子や卵子を持つ動物が誕生し、動物同士の交配によってヒト受精卵が生み出される事態は避けられるのか。
国際幹細胞学会(ISSCR)や各国の生命倫理審査委員会では厳格なガイドラインを敷いており、ヒト細胞を含む胚を動物の子宮に着床させて個体として誕生させることの制限や、発生段階の厳密なモニタリングが義務付けられています。難病治療への希望と、生命の尊厳を守るルールの両立が厳しく問われています。