現場スタッフが口を揃えて語るのは、主演を務める役所広司が見せた圧倒的な鬼気迫る演技だ。カメラが回っていない静寂のなかでも、彼は役柄の深い影を背負い続けていた。監督である是枝裕和との間で行われた即興のディスカッションは、脚本の予定調和を次々と塗り替えていったという。
共演陣にも日本映画界を代表する実力派が勢揃いしており、未公開のセット裏では、張りつめた長回し撮影が終わるたびに溜息と割れんばかりの拍手が巻き起こっていた。ある現場関係者は「役所さんの一言が空気の温度を瞬時に変えた」と明かす。妥協を一切許さないふたりの執念が、映像の一コマ一コマに圧倒的な熱量を宿らせている。