宇佐美時重という男を理解する鍵は、彼が抱く指導者・鶴見中尉への常軌を逸した執着にある。大日本帝国陸軍第七師団という精鋭部隊に所属しながら、彼を突き動かす動機に「国家への奉仕」や「軍人の誇り」は一切存在しない。ただひたすらに、鶴見中尉から「一番のお気に入り」として認識され愛されること。それだけが彼の全人生の価値基準なのだ。
この歪んだ執着の原点は、新潟の農村で過ごした少年時代にまで遡る。幼少期に突如現れた鶴見の巧みな誘惑と、自身の嫉妬心から親友・高市を自らの手で殺害した凄惨な事件。あの瞬間、彼の倫理観は完全に破綻した。犯した罪を咎められるどころか、鶴見に肯定され受け入れられた体験が、宇佐美の中に「狂気こそが鶴見に愛される術」という揺るぎない確信を植え付けたのである。