金曜ロードショーの放送時にSNS上で最も激しい議論が巻き起こるのが、主人公アシタカが村の娘・カヤから託された「玉(ぎょく)の小刀」をヒロインのサンへあっさり譲り渡してしまう場面です。「浮気男」「カヤが可哀想すぎる」といった視聴者の反応が毎度タイムラインを埋め尽くします。
しかし、民俗学的見地および宮崎監督が『もののけ姫 ロマンアルバム』で語った真意を精査すると、まったく異なる心理的リアリティが浮かび上がります。
- エミシの掟における小刀の意味:エミシの村において黒曜石の小刀は、女性が自らの命の代わりとして生涯を共にする決意を持った男性に渡す「魂の誓約」の証です。カヤはアシタカへの生涯の想いを込めてこれを渡しました。
- アシタカの死生観と覚悟:アシタカは村を追放された時点で「社会的にはすでに死んだ人間」として髪を落とし、二度と故郷へ戻らない運命にありました。
- サンへの譲渡の心理:サンに小刀を授けたのは、浮ついた恋愛感情ではなく「自分自身の生命と魂そのものをサンに託す」という極限の誓いです。エゴイズムを超えた魂の継承であり、人間に絶望したサンを現世へ繋ぎ止めるための唯一の防壁でした。