スタジオジブリ作品のキャスティングには、アニメーション特有の誇張された演技を排し、人間の体温が宿る肉声を求める徹底したリアリズムへのこだわりが存在します。『もののけ姫』の現場でも様々な逸話が残されています。
声優界のレジェンド・島本須美の起用と兼ね役
『風の谷のナウシカ』のナウシカ役や『ルパン三世 カリオストロの城』のクラリス役で知られる声優・島本須美さんが、本作ではタタラ場の気風のいい女性・トキ役を担当しています。さらに島本さんは冒頭でタタリ神に襲われるエミシの少女のひとりも兼任して演じました。宮崎作品の絶対的ヒロインであった島本さんが、ガラリと雰囲気を変えて啖呵を切るトキを好演したことは、当時のアニメファンに大きな衝撃を与えました。
アフレコ現場を震撼させた美輪明宏の即興力
モロの君のアフレコ時、宮崎駿監督は美輪明宏さんに対し、単なる怪物の声ではなく「崇高な知性と母性を宿した神」としての声を求めました。美輪さんは指示を瞬時に咀嚼し、あの世の響きのような重低音からサンの母としての優しい声色まで変幻自在に表現。モロが死に際に首だけで飛びかかり、エボシの右腕を食いちぎる瞬間の唸り声には、スタジオ内のスタッフ全員が息を呑んだと伝えられています。
個性派俳優たちがもたらした泥臭い生活感
三谷幸喜作品の常連として当時ブレイク中だった西村雅彦さん(甲六役)や、歌手であり重厚な存在感を誇る上条恒彦さん(ゴンザ役)など、映像界・舞台界の個性派が揃えられました。彼らの起用により、タタラ場で生きる庶民たちの泥臭い活力とユーモアが見事にフィルムへ定着しました。