「月の重力はどこでも一律に6分の1である」と考えるのは、科学的には不正確です。月面には、局所的に引力が異常に強くなっている「マスコン(Mass Concentration:質量集中帯)」と呼ばれる重力異常エリアが無数に点在しています。
マスコンは、太古の巨大隕石衝突によって生じたクレーターの底に、月のマントルから高密度の玄武岩質マグマが湧き上がって固まった場所(現在の「月の海」と呼ばれる黒っぽい地域)に集中しています。
- 軌道への深刻な影響:マスコンの上空を宇宙船や探査機が通過すると、局所的な強引力によって軌道が下方へ引きずり下ろされます。
- 過去の探査機の墜落:アポロ計画時代に月周回軌道へ投入された小型サブサテライトは、マスコンによる軌道擾乱(じょうらん)を受け、当初の想定よりもはるかに早く月面に激突・墜落しました。
現在進行中の探査ミッションでは、月探査機「かぐや(SELENE)」やNASAの重力観測衛星「GRAIL」が作成した高精度な月面重力場マップが用いられていますが、2026年現在の月周回ステーション「ゲートウェイ」や月着陸船の運用においても、このマスコンによる軌道予測の狂いは極めて重要な航法上のリスク要因として厳重に監視されています。