胃をすべて取り除く「胃全摘術」を公表し、日本中に衝撃を与えた代表格といえば、福岡ソフトバンクホークス取締役会長の王貞治氏です。王氏が胃がんの手術を受けたのは2006年7月のことでした。当時66歳、監督としてシーズン真っ只中での電撃離脱と慶應義塾大学病院での緊急手術は、野球界のみならず日本全国を揺るがしました。
術前の恰幅の良さから一転、退院会見で見せたスーツが余るほどの激やせ姿に、当時は再発や早期引退を危ぶむ声も少なくありませんでした。しかし手術から約20年の歳月が流れた現在も、王氏はホークスの最高幹部としてグラウンドに視線を行き届かせ、少年野球の普及や球界の発展のために矍鑠(かくしゃく)として活動を続けています。公の場で「手術のあとは本当に食べられなくて体重が一気に落ちたが、体が新しい消化の仕組みに慣れるまで焦らず付き合ってきた」と語った通り、適切な術後管理を続ければ高齢期を迎えても極めて高い生活の質(QOL)を保てることを、身をもって証明しています。
また、政治の舞台で闘い続ける鈴木宗男参議院議員も、2010年12月に早期胃がんにより胃全摘手術を受けた一人です。収監直前の過酷な時期に病が判明し手術に踏み切りましたが、術後15年以上が経過した現在もトレードマークの鋭い弁舌と精力的な政治活動は衰えを見せていません。鈴木氏も術後は10キロ以上の体重減少に見舞われたものの、規則正しい運動と徹底した食事管理で体力を回復させました。
一方で、胸を打つ軌跡を残したのがフリーアナウンサーの黒木奈々さんでした。2014年8月に胃がんの告知を受け、31歳の若さで胃全摘手術を決断。闘病手記『未来のことは未来の私にまかせよう』の中で、手術痕への葛藤や思うように食事が喉を通らないもどかしさを率直に綴り、2015年1月にキャスター復帰を果たしました。惜しくも同年9月に逝去されましたが、彼女が公の場で発信し続けた「胃を失っても前を向いて伝える」という真摯な姿勢は、今なお多くの胃がんサバイバーの心の支えとなっています。