買収表明から流れた月日は、このディールが純粋な経済合理性だけで決着しないことを証明した。ホワイトハウスの主が変わり、対外投資審査委員会(CFIUS)の判断や安全保障上の議論が二転三転する中、ワシントンの政治家たちにとって「伝統あるアメリカの鉄」を外資に渡すかどうかは、一票を左右する最大のパフォーマンスであり続けた。
とりわけ全米鉄鋼労働組合(USW)の態度は強硬だった。日本製鉄側が提示した雇用維持の約束や巨額の追加設備投資計画に対しても、「本社の決定権が東京に残る限り、労働者の未来は保証されない」との不信感を拭い去ることは容易ではなかった。ピッツバーグ周辺のラストベルトにおいて、工場の灯りが消える恐怖は単なる経済指標の悪化ではなく、コミュニティそのものの死を意味するからだ。