可逆的な軽症期において、科学的根拠を持つセルフケアの中心となるのが「神経滑走訓練(ニューロダイナミクス)」です。手根管症候群のストレッチのやり方として世界各国の理学療法で標準化されているこの運動は、腱と神経の癒着を剥がし、管内の血流を促すことを目的としています。
実践方法は次のステップで行います。まず、脱力した状態で胸の前で軽く握りこぶしを作ります。次に指をピンと伸ばし、そのまま手首をゆっくりと後ろに反らせます。続いて親指だけを外側に大きく開き、手のひら全体を外側へ向けて前腕を回転させます。最後に反対の手を使って親指を軽く手前に引き、正中神経を優しく牽引します。ポイントは、「痺れや痛みが走る手前で止めること」です。強い痛みを感じるまで引き伸ばすと、神経が牽引損傷を起こして逆効果となります。各ポジションを5秒間キープし、1日数回、入浴後などの血行が良いタイミングで行うのが理想的です。
東洋医学的なアプローチとして、手根管症候群に即効性を期待して用いられるツボ刺激も補助手段として知られています。手首の内側の横じわの中央にある「大陵(だいりょう)」や、そこから指3本分肘側に上がった位置にある「内関(ないかん)」は、自律神経の緊張を解き、手の血流改善を助けるポイントです。ただし、ここでも決して強く押し込まず、親指の腹で心地よい圧を感じる程度に留めなければなりません。
物理的な安静を保つ上では、手根管症候群のサポーターの選び方と装着法が極めて重要です。睡眠中は無意識に手首が直角に曲がりやすく、夜間の管内圧上昇を招いて激痛で目が覚める原因になります。医療用の夜間スプリント(手根管症候群用サポーター)は、手首の角度を最も管内圧が低くなる「背屈10〜20度の中間位」で固定する金属プレート入りのものが推奨されます。日中の一時的な負担軽減には手根管症候群のテーピング固定法も有効であり、伸縮性のキネシオロジーテープを手首の甲側から手のひら側へ軽くテンションをかけて巻くことで、手首の過度な屈曲を自然に防ぐことができます。