まず、すべての議論の出発点となる日本国憲法第13条の条文を確認します。
「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」
この短く力強い文章には、日本国憲法全体の基本思想が凝縮されています。明治憲法(大日本帝国憲法)下では国家や「家」が個人に優先していましたが、現行憲法は国家を「個人の尊厳を守るための手段」として位置づけ直しました。これが冒頭の「個人の尊重(個人の尊厳)」の原理です。
文中で保障されている「幸福追求権」は、憲法第14条以下に列挙されている個別の自由権(信教の自由、表現の自由、信条による差別の禁止など)に該当しない権利であっても、個人の人格的生存に不可欠な利益であれば憲法上の権利として救済するための受け皿となります。法学上、これを「包括的基本権」と定義します。
憲法13条と14条の違いと補完関係
法学教育や資格試験の現場でも頻繁に対比されるのが、第13条と第14条(法の下の平等)の役割分担です。
第13条が「人間が一人のかけがえのない存在として自分らしく生きる実質的な自由(人格的価値)」を基礎づけるのに対し、第14条は「国家が人種、信条、性別、社会的身分、門地によって不合理な差別をしてはならない(平等原則)」という関係性を規定します。個人の尊厳を侵す差別が存在する場合、両条文はセットで援用され、国家権力の不作為や法制度の不備を突く強力な法的武器となります。