北斎館の展示において最も見る者を圧巻するのが、小布施の祭屋台の天井を飾る巨大な天井絵だ。とりわけ、東町屋台の天井に描かれた「怒濤図」は、日本美術の歴史に燦然と輝く金字塔と言っていい。この傑作は「男浪図・女浪図」という対の画面で構成されている。
「男浪図」では、荒狂う波が鋭い爪を立てるかのように渦を巻き、激しい動性が表現される。一方の「女浪図」は、包み込むような静けさと妖艶な曲線美が印象的だ。二つの波が対峙することで生み出される独自の小宇宙。金箔の地に浮かび上がるこの立体的な波紋は、あたかも現代の3Dグラフィックを見ているかのような錯覚すら覚えさせる。80代半ばの老人が描いたとは到底信じがたいエネルギーが、頭上から降り注いでくる。