物語の核心に位置するのが、グランマンマーレから宗介に突きつけられる「誓い」の問答だ。「ポニョが魚であっても、半人前であっても受け入れられるか」。この問いは、単なる幼い恋の確認ではない。一歩間違えれば、ポニョは泡となって消え、世界は崩壊するという破滅的なリスクを孕んでいる。
ポニョの本名が「ブリュンヒルド」である点も見逃せない。リヒャルト・ワーグナーの楽劇で知られる北欧神話のワルキューレ(死を運ぶ戦乙女)の名だ。ファンタジー映画としての一面を持ちながら、その根底には神々の黄昏や世界の終末観が密やかに流れている。宗介が無条件の愛を証明しなければならない試練は、まさに世界の存続を賭けた冷酷な契約なのだ。ポニョという存在は、愛らしいヒロインであると同時に、世界を飲み込む津波そのものの擬人化でもある。