この台詞が放つ異様なまでの切迫感は、スタジオカラーおよび当時のガイナックス制作現場における、クリエイターたちの剥き出しの人間ドラマから生み出されたものでした。監督を務めた庵野秀明氏は、前作『ふしぎの海のナディア』終了後に約4年間にわたる深刻な精神的スランプに陥り、アニメ制作から完全に逃避していた過去を持っています。
当時のインタビューや自著『スキゾ・エヴァンゲリオン』などの証言記録によると、庵野監督は「4年間壊れて動けなかった自分が、再び何かを作ろうとしたときに最初に出た動機が『逃げちゃダメだ』だった」と述懐しています。つまり、碇シンジの葛藤は、創作者である庵野氏自身が「もう一度現実と向き合わなければ死んでしまう」という極限の危機感から絞り出した、私小説的な告白そのものでした。
その狂気にも似た演出意図を、喉を削りながら具現化したのがシンジ役を演じた声優・緒方恵美氏です。緒方氏は当時のアフレコ現場の壮絶さを、自著『再生(仮)』や特番インタビューの中で詳細に明かしています。第1話の収録時、テストを重ねるごとに精神を削られ、ブース内では実際に過呼吸を起こし、胃液がせり上がるほどの嘔吐寸前の状態にまで追い込まれながらマイクに向かっていたといいます。
「シンジの苦痛を記号的な芝居ではなく、生身の肉体の痛みとして表現しなければ庵野さんのOKは出なかった」と関係者が振り返る通り、あの掠れた震え声は演技プランを超えた生理現象の産物でした。監督の内省的叫びと、演者の身体的限界がシンクロしたからこそ、30年の時を経ても風化しない圧倒的なリアリズムがフィルムに刻み込まれたのです。