日本国内の仏事において、しきびの取り扱いは宗派や地域共同体の慣習によってプロトコルが明確に分かれます。知らずに自身の基準を押し付けると、親族間トラブルや法要での恥につながりかねません。
代表的な事例が浄土真宗の樒の飾り方です。浄土真宗(本願寺派・真宗大谷派など)の伝統的な荘厳(しょうごん)規定において、仏壇の小型花瓶である「華瓶(けびょう)」には色とりどりの生花を挿しません。水を入れた華瓶に小ぶりの樒を1本だけ挿す「樒一輪」が正式な作法です。
浄土真宗では死者を追善供養するのではなく、阿弥陀如来の力によって即座に極楽浄土へ往生するという教義を持ちます。そのため、華瓶の水は故人の喉を潤すための水ではなく、極楽浄土に湧き出る清らかな香気を放つ「八功徳水(はっくどくすい)」を表現しています。水を香水に見立てるための媒体として、芳香を持つ樒の葉が必須とされているのです。
さらに厳格なしきび重視の姿勢をとるのが日蓮正宗や創価学会です。これらの宗派では「生花は散りゆく無常の象徴であり、やがて腐敗して不浄を招く」と捉え、仏壇には色花を一切飾らず、常に生命力に満ちた常緑の樒のみを供えることが鉄則となっています。
一方、屋外における墓参りのしきびマナーでは、地域差が顕著に現れます。関西圏や四国地方では、墓石の両脇にある花立の片側あるいは両側にしきびを供える光景が日常的です。この際、マナーとして最も配慮すべきは「後片付け」です。しきびは水持ちが良く数週間から1ヶ月以上緑を維持しますが、枯死すると葉が一気にパラパラと落下し、墓石周りの排水溝を塞ぐ原因になります。霊園ごとの規約に従い、枯れた後の回収や定期的な清掃管理を怠らないことが不可欠です。