津川雅彦のキャリアにおいて、中年期に訪れた転機はまさに圧巻だった。鬼才・伊丹十三監督とのタッグは、彼の内に眠る狂気と人間味を極限まで引き出す化学反応を生んだ。1987年公開の映画『マルサの女』で見せた、癖のあるラブホテル経営者・花村役の怪演は語り草だ。脱税を追う国税局査察部とのスリリングな心理戦において、男の貪欲さと滑稽さを同居させた演技は、観客の度肝を抜いた。
一方で、NHK大河ドラマにおける彼の存在感も圧倒的だった。『葵 徳川三代』で演じた徳川家康役は、晩年の老獪さと天下人たる凄みを完璧なまでに表現してみせた。重厚な時代劇の立ち振る舞いの中に、ふっと見せる人間臭い溜め息や鋭い眼光。役の奥底にある生々しい葛藤を浮かび上がらせる手法は、長年の鍛錬と直感に裏打ちされた彼ならではの職人技であった。